2021年


ーーーー6/1−−−− 価格優先の家具


 
ツーバイフォーの材(2×4材)を使った家具作りを、今年になって2件行った。一つは椅子、もう一つはキッチンで使うカウンター。自宅用の家具や、工房で使う構造物なら、2×4材で作った事はこれまでに何回かあった。昨年も風呂場の脱衣室に収納棚を作った。椅子の試作品も、2×4材を練り付けした角材で作った。しかし注文家具を2×4材で作ると言うのは、これまでに例が無い事だった。

 何故2×4材かと言えば、安価だからである。顧客からの注文が、価格が低いことが優先で、見映えは言わばどうでも良いという事だったので、2×4材を使う事にした。さらに、コストを下げるために、ホゾ加工の代わりにビスケットを使った。ビスケットとは雇い核 (やといざね)の一種で、専用の電動工具で掘った溝に、ボンドを塗布した楕円形の小木片を挿すことで、部材どうしを接合する方法である。そして仕上げの鉋がけは行わず、サンドペーパーもかけず、塗装も省略した。

 椅子は、背もたれが頭の先まであるもので、顧客から送られてきたスケッチは昔の学童椅子のように直線と直角で構成されていた。ご家族に体が不自由な方がいて、その症状に合わせる目的とのことだった。椅子製作者としては、座り心地や使用感を保証できる形状では無かったが、そういう特別な用途なら異論を挟む余地は無い。その椅子の背もたれや座面に、クッションをあてがって体に合わせる予定とのことだった。そのニーズに応える椅子は、家具店で探しても見付からなかったので、私のところへ話が来たという次第。そういう目的だから、見映えを気にする必要は無い。そして、上手く運ぶかどうか未知数の部分があるので、コストはなるべく低く抑えたい。そんな内容のご注文だった。

 カウンターの方は、とにかく実用本位で低価格というコンセプトだった。L字形に組み合わせて使う2台のカウンターの、全体のサイズから細部の寸法まで、顧客の指示に従った。キッチンのスペースが限られているので、寸法決めがデリケートなのだろう。棚は全て上下に移動できるようにした。天板はパインの集成材を使い、その表面だけは塗装を施した。2×4材で作っても、ガッチリ丈夫な構造にしたので、実用上は全く問題無い。見映えの点では、もちろんゴージャスな感じは無いが、素朴でむしろ気持ちが良いという事もあるかも知れない。ともあれ、市販品では希望にピッタリ合うサイズの品はまずありえないし、安物を買えばグラグラ、ガタガタのもので空しい気持ちになるだろう。こういう注文の仕方は、ある意味で正解かも知れない。

 この仕事を始めた頃だったら、自分の作風にそぐわない注文は断ったかも知れない。まだ仕事に関して未熟だった頃は、木工家具作家として自分の身の丈に合わないプライドがあり、その一方で早く一流の品物を作れるようになりたいとの焦りもあった。今ではそのようなことは無い。顧客のご注文に応じて、相応の品物を作ることに、何の抵抗も感じない。

 ところで、だいぶ前だが、米国の木工家から聞いたところによると、あちらでは2×4材を使って家具を作るコンテストがあるとのこと。さすがは自由な発想の国だと感心したのを覚えている。




ーーー6/8−−−  昔の学生ジャズバンド


 
地元に住むアマチュア音楽家のK氏。そのK氏から南米音楽の合奏に誘われ、地域の音楽イベントに参加したことがある。その時K氏はケーナを吹いたが、お得意はバリトンサックスである。学生時代にジャズ研に所属し、ビッグバンドで演奏をしていたそうな。会社を退職してから当地に居を移し、悠々自適の生活。その一方、地元のジャズバンドに加わり、老後も演奏活動を楽しんでいる。何故バリトンサックスなのかと訊ねたら、演奏を希望する者が少なく、競争が無いので、いつもバンドのレギュラーになれるからだと。

 そのK氏から、学生時代の思い出話を聞いたことがある。ビッグバンドで全国各地を巡業した話になると、「あの頃は楽しかったなー」と、遠くを見るような目になった。

 W大の卒業生は全国に散らばっていて、ジャズ研のOBも各地に居た。それらの人たちがイベントを企画し、現役学生を招いて演奏をさせたのだと。イベントは主にダンスパーティー。今から半世紀ほど前のその当時は、若者の社交の場として、ダンスパーティーが盛んに行われていたのである。

 車に楽器や機材を積み込み、地方都市へ出掛ける。行く先々で、歓迎されたそうである。普段は聞く機会も無い生バンドの演奏は、地方の若者を興奮させ、パーティーは大いに盛り上がった。そして東京から来た大学生は、若い女性に大いにモテたそうである。楽しい出会いもあっただろう。演奏が終われば打ち上げをし、その地の美味しいものを食べ、酒を飲んでドンチャン騒ぎをする。そして翌日はまた別の場所へ移動する。そんな事を繰り返す日々は、間違いなく楽しいものだったろう。

 ところでK氏の話によると、ジャズ研の部室にはよくタモリが遊びに来たそうである。同じような年齢だったのだろう。その頃から既に、「凄く面白い奴」だったそうである。




ーーー6/15−−−  我が家に生えている木


 
我が家を訪れた人で、植物に関心がある人は、「生えている木の種類がずいぶん多いですね」と言う。私はあまり植物に関心が無い方なので、そういう事を意識したことは無い。普通の家庭の庭木がどれくらいの種類なのかも、見当が付かない。でも、人がそう言うのだから、多い方なのかも知れない。

 そんな話は家庭内でちょくちょく出ていたのだが、最近になってカミさんが樹木の種類を数えた。草本は除外しての数である。

 柿、 むくげ、 レンギョウ、 栃、 どうだんツツジ、 ツツジ、 柏葉アジサイ、 椿、 夏椿、 香りバイカウツギ、 さくらんぼ、 紫陽花、 雪柳、 花すおう、 梅、 ゆすらうめ、 コシアブラ、 山アジサイ、 もみじ、 レッドロビン、 イチイ、 花いかだ、 ヒノキ、 まさき、 朴、 ビバーナムスノーボール、 桜、 ニシキウツギ、 カルミア、 サラサウツギ、 ウチワノキ、 利休梅、 庭梅、 テルテモモ、 バイカウツギ、 沈丁花、 銀モクセイ、 ニオイロウバイ、 栗、 山椒、 シラカバ、 リョウブ、 ブルーベリー、 はまなす、 アンズ、 レモン、 ゆず、 ヒイラギ、 胡桃、 さるすべり、 赤松、 ツゲ、 マンサク、 コデマリ、 タラノキ、 ヤマボウシ

 この他に名前の判らない針葉樹が5本で、合計61種類であった。




ーーー6/22−−−  工房の屋根を補修塗装


 
工房はプレハブ建築で、屋根は鋼板葺きである。当初は青色をしていたと記憶しているが、年月が経つにつれて色が薄れてきた。そして所々に赤い筋が見られるようになった。錆が発生しているのである。そのような状態は、10年以上前から生じていた。これまでに二、三回、屋根に上がって補修の塗装をした。錆びている所に塗料を塗るのである。錆が少ないうちはスプレー缶の塗料を使ったが、だんだん錆び部が増えてきたので、その後はより安価な刷毛で塗る塗料に変えた。

 昨年秋に、また錆が多くなっていることに気が付いた。これは、全面塗り直しをしなければダメかなと思った。近所に塗料を扱う会社を経営している方がいる。7年前に、その方のアドバイスで母屋の屋根を塗り直したことがある。塗料は購入し、スプレー装置は貸してもらって、自分で塗装をした。塗装業者に頼むより、格段に安く上がった。今回もそのやり方で行こうと思った。

 しかし、こういう事は、往々にして行動に移すタイミングが掴めない。後伸ばしにしているうちに、冬になった。寒い時期に屋根に上って作業をするのは、気が進まない。そこで、春になり、季節が良くなったら行動を起こすことにした。

 ところが、新緑の時期を迎えても、まだもたもたしていた。我ながら優柔不断さに呆れた。そのうちに梅雨入りが迫ってきた。塗料や道具を手配しても、今日頼んで明日にというわけには行かない。作業予定が遅れて、季節が夏に向かえば、屋根の鋼板が熱くなって作業に支障を来す。となると、実施は秋になるかも知れない。梅雨の雨で錆が進行し、雨漏りが生じる恐れは無いだろうか。なんだか悲観的な状況になってきた。

 重い腰を上げて、屋根に上がってチェックをしてみた。下から眺めた印象よりは、錆の面積が小さいように感じた。そこで、従来通り、スポット的に補修塗装を施することに落ち着いた。

 ホームセンターに行って、「錆の上からそのまま塗れる」という塗料を買ってきた。それを持って屋根に上がり、刷毛で塗った。午前中の涼しい時間から作業を始めたが、陽を浴びて屋根はすぐに熱くなった。この作業を真夏に行うのは無理だと、つくづく感じた。

 作業は2時間ほどを予定したが、その半分くらいで終了した。錆が多く出ている部分と、そうでない部分の差が大きいのである。作業を開始した南面の西側は、かなり錆が多かった。その仕事量から2時間と予想したのだが、錆が少ないところもあった。南面と比べると、北面は明らかに錆が少なかった。どういうわけだろう?

 塗料一缶で8平米塗れる勘定である。ほぼ一缶使い切ったから、それ位の面積を塗ったのだろう。ポイント的に塗っても、合計すれば結構な面積になるということだ。それでも、屋根全体なら70平米くらいあるから、十分の一程度の塗料で済んだことになる。

 次回以降も、この方法で良いように思った。ただし塗る頻度はもっと多く、年に1回くらいは実施した方が良いだろう。




ーーー6/29−−− 不可解な電話


 
一昨年の夏のことである。東京のある地域の警察署の刑事を名乗る男から電話があった。私の仕事関係のある人物について調査をしているので、情報を提供して欲しいと。

 私は、「突然警察官だと言って電話をかけられても、信用するわけにはいかない」と応えた。すると相手は「そう感じられるのはごもっともですが、ここは信用していただくしかありません」と言った。

  「それではこちらから電話を掛け直します」と言うと、「そのように警戒されるのは、たいへん良い事だと思います。どうぞ掛け直して下さい。では、こちらの電話番号をお伝えします」と言うので、「番号はこちらで調べます」と返したら、「ごもっともです、そのようにお願いします」と言った。

 ネットでその警察署の電話番号を調べた。そこへ電話をしたら、別の男性が出た。用件を伝えると「その名前の刑事は何人かいるのですが・・・、少々お待ちください」と言って、電話口の向こうで何やら話していたが、しばらくすると先刻の男性が電話に出た。

 私は状況の説明を求めたが、捜査に関わることなので話せないと相手は言った。どのようにして私の名前と電話番号を知ったのか?と問うと、調べの中である人物から聞き出したと言って、私が知っている人の名を口にした。そんなやり取りをしているうちに、どうやら信用できる相手だと感じた。それで、聞かれたことについて、当事者の不利益になるような内容でも無いと判断し、返答した。

 最後に相手は、捜査が終わるまでこの件は伏せて置いて欲しいと言った。そして、捜査の結果が出たら必ず連絡をすると言い、電話を切った。

 1ヶ月後、その刑事から電話があり、結局問題となることは無かった、お騒がせしました、と言った。

 詐欺のようではなかったし、被害をこうむったわけでも無かったが、なんだか釈然としない出来事であった。